ご自宅で療養を希望される方は、なぜ自宅がいいのでしょうか。理由はいろいろでしょう。
家が落ち着く、好きなことができる、家族がいる、ペットがいる等々。
「ケアとはなにか」の中で、〈小さな願い〉の話が出てきます。
〈小さな願い〉を言葉にする手伝いをすること、それを叶えようとする努力することが、ケアに重要であると指摘されています。
ALSの人の「好きなバンドのライブに行きたい」という願い、嚥下障害のある人の「プリンを食べたい」という願い
〈小さな願い〉は人生のかけがえのない価値であり、日々の〈小さな願い〉の積み重ねが、その人自身を形作ります(村上2021、p.61)。〈小さな願い〉は生活に根差した、直接的に本人の快適さに関わるものです。
病院という抽象的な環境のなかでは見えにくくなるような、具体的で個別的な〈小さな願い〉が、自宅という生活環境の中では見えやすくなるのかもしれません。
自宅か、病院か、施設か? 患者さんやご家族に、これからの療養場所を問うことがあります。なかなか難しい問いかけだと思います。
村上は、in place という言葉を紹介しています。「しっくりくる、その人が落ち着ける場所」というニュアンスがあるそうです(村上2021、p.102)。その人の〈小さな願い〉を叶えていくなかで、その人が落ち着ける場所、しっくりくる場所を見つけられることが紹介されています。ケアで大切なのは、まずその人の<小さな願い>を支えること。療養場所はそれが実現しやすい場所、ということでしょう。それは自宅とは限りません。結果的に、〈小さな願い〉が叶えられ、しっくりくる場所が、病院や施設になるかもしれません。
文献 村上靖彦 「ケアとは何か 看護・福祉で大事なこと」中公新書