おはようございます。医師の中村です。
今日は本の紹介です。宮坂道夫さんの「対話と承認のケア ナラティブが生み出す世界」です。
ナラティブって何?という私にとって、示唆の多い本でしたので、おすすめします。
その中から、ヘルスケアの三つの関心領域の話題です。著者によればヘルスケアには三つの関心領域があるといいます。①身体機能、②生活機能、③人生史です(宮坂 2020、p.101)。
身体機能は、分子、細胞、組織、臓器といった単位で行われる機能のことで、エビデンスが重視される領域です。医師が最も得意とする部分ですね。
生活機能とは、患者が自分の生活を営むうえでの機能のことであり、一人でトイレに行って排尿できる、
夜間にあまり頻繁に尿意を感じずに睡眠できる、といったことで、看護師さん、ヘルパーさん、ケアマネさんが得意とする部分でしょうか。
3つ目の「人生史」ですが、誕生から死に至るまでの患者の人生の歴史であり、進学、就職、結婚、出産、育児、離別、死といった主要なライフ・イベントのことです。
著者は、腎臓病をかかえる患者を例に挙げて、透析を受けることで家族に負担をかけるため、透析を受けないほうがよいのではないか、と悩む人が紹介されています(宮坂 2020、p.102)。悩んでいる人は、身体機能や生活機能の改善を目的とする血液透析をうけることで、人生の行く末や、家族との関係が大きく変わってしまうことを悩んでいるということでしょう。
また身体機能、生活機能、人生史という三つの関心領域は、医学文献のエビデンスが多い順であり、かつ医療従事者にとって関心の高い順でもあり、医師は、身体機能について大いに語れても、人生史については沈黙してしまうと指摘しています(宮坂 2020、p.103)。
最近、人生会議、ACPのことが話題になってますが、まさに「人生史」について問われているといえます。
宮坂道夫(2020)『対話と承認のケア ナラティブが生み出す世界」医学書院.