ネガティブ・ケイパビリティ
2022年6月23日

 おはようございます。医師の中村です。今日は、「ネガティブ・ケイパビリティ」という本を紹介したいと思います。

 私は10年近く在宅医療の関わってきて、昨年は50名の患者さんをご自宅でお見送りました。その多くは癌の終末期の患者さんでした。終末期医療の現場では、答えのない問題に数多く直面します。

 例えば、どこまでご本人に病状を伝えるのか?、点滴はどうするのか?、延命処置はどこまでするのか?、家で最期を迎えるのか?ホスピスがいいのか?・・・

 答えのない問題に向き合うことはとてもストレスフルです。しかし、私はこの本の主題である「ネガティブ・ケイパビリティ」を知ることで気持ちが楽になりました。辛い状況であっても、逃げ出すことがなく、踏んばる力がついた気がします。ぜひみなさんにも知ってもらいたいと思います。

 ネガティブ・ケイパビリティとは何でしょうか。日本語にすると「負の能力」となり、定義は「どうにも答えの出ない、どうにも対処のしようのない事態に耐える能力」です。
 
 ネガティブ・ケイパビリティをこの世で初めて口にしたのはジョン・キーツという詩人でした。彼は、1795年にロンドンで生まれ、25歳という若さで結核で亡くなりました。彼が兄弟との手紙のやり取りのなかで、シェークスピアがもっていた能力として記載しました。キーツが手紙の中に記載した約170年後にイギリスのビオンという精神科医によって再評価されたものです。

 ネガティブ・ケイパビリティを理解するには、反対のポジティブ・ケイパビリティと比較すると分かりやすいと思います。ポジティブ・ケイパビリティとは、一般的な意味での能力で、要するに「問題を解決する能力」です。私たちは小学校から大学、会社への就職にいたるまで、さまざまな試験を経験しますが、これらの試験では、限られた時間の中で、いかに早く問題を処理するのかが試されます。まさに、ポジティブ・ケイパビリティを問われていると言えるでしょう。医学教育においても、できるだけ患者さんの問題を見出し、その解決を図ることが大切とされ、主にポジティブ・ケイパビリティの育成を中心に据えられています。

 ポジティブ・ケイパビリティには限界があります。それは、向き合っている問題に対して、今の自分が持っている能力で対応できない場合です。問題に対応できないとどうなるでしょうか。二つの対応方法がすぐに思いつきます。ひとつめは、解決できないのでその場から逃げてしまう。もうひとつは、問題を簡単な問題にしてしまって対処する。つまり、深層にある本当の問題へと目を向けず、表層の問題のみをとらえて対処してしまう。低い次元で対応してしまうということです。

 そこで第三の方法です。それは、「すぐに答えを出さない」ということです。すぐに答えを出さないために重要になるのが「どうにも答えの出ない、どうにも対処の使用のない事態、宙ぶらりんの状態を耐え抜く力」であるネガティブ・ケイパビリティが大切です。
 直ぐに正解を求めず、宙ぶらりんをた耐え、問題と向き合い続ける中でその先には、必ず発展的な深い理解が待ち受けていると確信して、耐え抜いていく。今は理解できない事でも、すぐに答えを出そうとするのではなく興味を抱きつづけ、その宙吊り状態を耐えなさいと言います。その先には、きっとより深い理解に行きつくはずだと。

 私の現場で置き換えてみます。癌の終末期の患者さんを前にしたときにどうなるでしょうか。治療方法が無いわけですから、その患者さんに表立ってしてあげられることは何もありません。ポジティブ・ケイパビリティを発揮することができない状況です。ポジティブ・ケイパビリティだけしか頭になければ、何もしてあげられない患者さんの傍にいることは苦痛なことでしょう。
 ネガティブ・ケイパビリティを知ることで、たとえ今すぐできることがなくても、その状況から逃げ出すことなく、患者さんに向き合うことができれば、よりより解が見つかるはずと信じられるようになり、こころが軽くなった気がしました。
 みなさんもぜひ「ネガティブ・ケイパビリティ」を読んでみてください。

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